えいごコラムR (2)

女王陛下、ママレードサンドイッチはいかが?

6月のはじめ、イギリス女王エリザベス2世の即位70周年(platinum jubilee)を祝う行事が開かれましたが、その一環として『クマのパディントン』(A Bear Called Paddington, 1958)の主人公であるパディントン・ベア(残念ながらCGです)が女王とお茶会をしているビデオが公開されました。以下に2人のやり取りを紹介し、いくつかの表現について考えてみます。

(1) 

Paddington: Thank you for having me. Oh, I do hope you’re having a lovely Jubilee.

The Queen: Tea?

Paddington: Oh, yes, please.

お茶をすすめられたパディントンはいきなりティーポットをつかんで注ぎ口を自分の口につっこみ、お茶を飲み干してしまいます。従僕(footman)に目と顔で注意されてあわてて(その注ぎ口から!)女王のティーカップにお茶を注ごうとしますが、お茶はもうほとんど残っていません。

(2)

Paddington: Oh, terribly sorry.

The Queen: Never mind.

椅子の上に立ってお茶を注いでいたパディントンは足を滑らせてポットを落としそうになります。その拍子にテーブルの上のクリーム入り菓子に手をついてしまい、クリームが飛び散って従僕の顔にかかります。

(3)

Paddington: Oh dear. Hmm . . . Perhaps you would like a marmalade sandwich.  I always keep one for emergencies.

パディントンは帽子からママレードサンドイッチを取り出して女王にすすめようとします。

(4)

The Queen: So do I.  I keep mine in here.

Paddington: Oh . . .

The Queen: For later.

女王も自分のハンドバッグからサンドイッチを取り出します。パディントンは驚いて目を丸くします。

(5)

Footman: The party is about to start, Your Majesty.

宮殿の外には大勢の人々がつめかけており、従僕が「陛下、そろそろ始まります」と告げます。パディントンは帽子を取って頭を下げます。

(6)

Paddington: Happy Jubilee Ma’am, and thank you for everything.

The Queen: That’s very kind.

2人は外で始まる(Queenの!)We Will Rock Youの演奏に合わせて、スプーンでカップとソーサーを叩きはじめます。

では表現をいくつか見ていきましょう。まず(1)の “Thank you for having me.” です。これは「ご招待ありがとう」という意味の、ややていねいな言い方です。

でも考えてみれば変だと思いませんか。haveは “I have a car.” などと同じ「~を持つ」という動詞です。直訳すれば「私を持ってくれてありがとう」‥‥?

grammarhow.というウェブサイトはこの表現について次のように述べています。

“Thank you for having me” means we’re thanking somebody for being hospitable and welcoming to us.  “Having me” in this sense means someone invited us to some event, treated kindly, and looked after in the best way.

上のように “having me” は、誰かが「自分を何らかのイベントに招き、親切にもてなし、いろいろ気を配ってくれたこと」なのです。逆にいえば、これらをひっくるめて表せる動詞が他にないので、have1語にすべて負わせた表現だといえます。 “inviting me” などで置きかえることも不可能ではありませんが、どこかしっくりきません。

続いて(3)の “Perhaps you would like a marmalade sandwich.” (ママレードサンドイッチはいかがですか)です。この “perhaps you would like” は後にto不定詞をつけて使うことが多く、衣料品店で店員が客に “Perhaps you would like to try it on.” (試着なさってはいかがですか)と声をかけたりします。

このwouldは「仮定法過去」です。「仮に~なら」という表現で相手への配慮を示す言い方で、「もしあなたがこのママレードサンドイッチを召し上がったらお気に入るかもしれません」といったニュアンスです。ここでもパディントンはシンプルながらていねいなもの言いをしています。

(4)の “So do I.  I keep mine in here.” も見ておきましょう。「so do+主語」は、前の文(節)の内容を主語を変えてくり返す言い方です。 “Mary loves wine.”  “So do I.” (「メアリーはワインが大好きなんです」「私もです」)のように使います。パディントンが “I always keep one for emergencies.” (私は緊急事態にそなえていつも[ママレードサンドイッチを]1つとっておくんです)と言うのに対し、女王は「私もよ」と返しているわけです。

その下の “For later” は、 “keep ~ for later” (後々のために~をとっておく)の後半部分だと思われますが、なぜこのひと言をちょっと区切って述べているのでしょうか。

HiNativeというサイトで、 “save ~ for later” という表現について “I save my homework for later.” (宿題を後にとっておく)と言えるか、と質問している人がいました。それにある人が次のように回答しています。

It’s ok if your homework is something you like to do.  When you “save something for later” it implies that you like or value that something but you can’t take care of it now.  For ex. “I’ll save my pudding for later.”

このように “for later” は話者にとって大事なもの、好きなものを「とっておく」場合に、たとえば「おやつをとっておく」のように使うのだと述べられています。女王が(ちょっとニヤッとして) “For later.” と述べるこのシーンは、彼女がママレードサンドイッチを後で食べるのを楽しみにしていることを暗示しているのです。

女王とパディントンの会話は、飾り気のない言葉づかいの中に相手への敬意と配慮がにじみ出ていて、いかにも「イギリス的」なやり取りです。まだ下のURLから視聴できるようですので、ぜひご覧になってください。

 

(N. Hishida)

 

【引用文献】

“Ma’amalade sandwich Your Majesty?” YouTube 2022.06.06.

URL: https://www.youtube.com/watch?v=7UfiCa244XE

Martin Lassen, “‘Thank You For Having Me’ Meaning: 14 Example Sentences (+Good Replies).” grammarhow.

URL: https://grammarhow.com/thank-you-for-having-me-meaning/

“Question about English (UK): What does save st for later mean?” HiNative 2021.03.22.

URL: https://hinative.com/en-US/questions/18634075