【えいごコラム57】 仮面ドライバー 

 

えいごコラム(57)

 

仮面ドライバー

 

「仮面ライダー」シリーズの最新作、『仮面ライダードライブ』が間もなく始まりますが、この作品ではライダーがバイクではなく、車に乗って活躍するんだそうです。それじゃ「仮面ドライバー」じゃないか、と物議をかもしているとか。

 

そういえば、しばらく前に『仮面ライダー電王』というのがありましたね。この作品の主人公は電車に乗っていましたが、こちらは「ライダー」なんでしょうか。今回はライダー(rider)のもとになる ride という動詞の使い方について考えてみます。

 

ODE で ride を引くと、まず次のように記されています。

 

sit on and control the movement of (an animal, typically a horse)

 

いうまでもないですが、馬などの動物に乗ってその動きをコントロールする、というのがもとの意味で、そこから “sit on and control (a bicycle or motorcycle)” つまり「自転車やバイクに乗る」という意味が派生します。

 

また、“travel in or on (a vehicle) as a passenger” 、つまり「乗り物にお客として乗る」という意味にもなります。この意味の例文として次のようなものがあります。

 

It’s cheaper to ride the train to work.

(通勤には電車を使った方が安い。)

 

このように電車に乗ることも ride なのです。したがって、電車に乗って戦う「電王」はまぎれもなく「ライダー」です。

 

じつは ride は、とくに ride in などの形で、自動車に乗る場合にも使います。次の例文を見てください。

 

I rode back in Tom’s car.

(私はトムの車に乗せてもらって帰った。)

 

じゃあ車に乗る場合も ride でいいんだ、と思うのはちょっと待った。上の例文にも示されているように、この意味で ride が使えるのは他の人が運転する車に「乗せてもらう」場合だけなのです。自分で車を運転するのは drive です。たとえば、「私は乗馬を習った」なら “I learned how to ride a horse.” ですが、「私は運転を習った」は “*I learned how to ride a car.” とは言えません。“. . . how to drive a car.” とすべきです。

 

やはり何年か前に『仮面ライダー響鬼』という作品がありました。この主人公は当初バイクに乗れず、事件が起こるとサポートメンバーの運転する車で現場に向かっていました。この彼の行為がまさに ride なのです。つまり響鬼は、バイクには乗れないけど、間違いなく「ライダー」ということになります。

 

なぜ、自転車やバイクを運転することばかりか、電車やバスに乗ること、人の車に乗せてもらうことまで ride なのに、自分で車を運転することだけは ride と言えないのでしょうか。私は、これには歴史的事情が関わっていると思っています。

 

drive はもともと動物を「追い立てる」という意味で、そこから馬車の御者が馬を「御する」意味に使われるようになりました。つまり drive は本来、馬車の「運転」に使われた語なのです。

 

馬車が使われた時代、英国の人々、とくに上流階級にとって、馬に乗ることと馬車に乗ることは大きく違う意味をもっていました。馬はもちろん自分で走らせるわけで、乗馬の技能を身につけることは上流としてのたしなみでした。しかし馬車は御者に命じて走らせるものであり、上流の人々にとって自分で馬車を御するなどということは想像もできませんでした。つまりこの当時、馬を ride する者と馬車を drive する者との間には、明確な社会格差があったのです。

 

バイクや自転車に乗ること、あるいは人の運転する乗り物に「乗客として」乗ることは、いわば「上流」の立場から行いうることで、これらが ride という動詞で表されるのだと私は考えています。それに対して、自分で車を運転することはどこか「御者」の姿をひきずっていて、英語圏の人から見るとまた違うイメージがあるのでしょう。

 

『仮面ライダードライブ』の主人公も、自分で運転しないで後部座席にでも座ってれば、ちゃんと「ライダー」なんですがねぇ・・・。

(N. Hishida)

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