【えいごコラム号外19】 すれ違う英語

  

えいごコラムExtra

 

すれ違う英語

 

6月23日(日)のオープンキャンパスで、キスチャック先生と一緒に体験授業を担当しました。「その英語、本当に通じますか」と題して、英語表現に関する日本人のちょっとした勘違いから、ネイティブスピーカーとの会話がかみ合わなくなったり誤解が生じたりする状況を、スキット(寸劇)にして実演しました。いくつかをここで紹介しましょう。

 

スキットはキスチャック先生と私で作ったものですが、「日本人が使い方を間違えそうな」表現を選ぶにあたって、下の「参考文献」の本を使いました。いずれもカナダ人のWilliam と日本人の Nobu とのやりとりとして展開します。

 

Skit 1: Inviting to Dinner

 

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William, why don’t you come and dine with us on Saturday?

I’d love to. Thank you.

We’re thinking of preparing Japanese dishes. Can you eat sashimi?

Yeah. I’ve got a mouth and teeth, as you can see.

Come on! You know what I mean. Do you like sashimi?

I love it.

 

Nobu が同僚の William に、自分の家へ夕食に来ないかと誘います。和食を用意するつもりで、それが William の口に合うかどうかと案じています。そこで、「刺身は食べられますか」というつもりで “Can you eat sashimi?” と尋ねます。

 

しかし、助動詞 can は基本的に「~する能力がある」ということを表します。たとえば “Can you swim?” なら「あなたには泳ぐ能力があるか」と聞いているわけです。ですから Nobu は、「あなたには刺身を食べる能力があるか」と尋ねていることになります。それで William は笑って「ああ、口も歯もあるからね」と答えるのです。

 

この場合 “Do you like sashimi?” (刺身は好きですか)と聞く方が自然です。

 

Skit 2: Holidays

 

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How were your holidays, Nobu?

I went to play in Osaka with my family.

(Chuckling) What kind of play? Tag, or hide-and-seek?

No, no, no. We went sightseeing.

Sightseeing isn’t playing, you know.

Put these takoyaki dumplings in your mouth and be quiet.

 

William が Nobu に「休暇はどうだった?」と尋ねます。Nobu は「家族と大阪へ遊びに行ってきたよ」と答えようとします。そして、「遊びに」という日本語表現につい引きずられて、play という語を使って “I went to play in Osaka with my family.” と答えてしまいます。

 

ところが英語には「遊びに行く」に相当する表現はありません。 “went to play. . .” だと、それこそ鬼ごっこや隠れんぼでもしに行ったような印象になります。正しくは、Nobu たちは “went sightseeing” (観光に行った)のです。

 

Skit 3: At a Clothing Store

 

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Hello. How can I help you?

I’m looking for a sweater.

Well, how about this one? It is made of pure wool and hand-knitted.

Not bad. I like the color. How much is it?

It’s on sale. Just 80 dollars.

Oh, it’s cheap!

It is not cheap! It is a really good-quality sweater!

I mean it’s not expensive.

Right. It’s very reasonable.

 

Nobu がセーターを買いに来ます。店員の William は、ウール100%で手編みという質のよいセーターを出してきて、セールで値下げしているからお買い得だ、と述べます。Nobu は、その値段を聞いて「それは安い」というつもりで “Oh, it’s cheap!” と口にします。

 

しかし cheap という形容詞は「安物の、安っぽい」という意味を含みます。そこで店員は、Nobu が「なんだ、安物じゃないか」と言ったのだと思ってしまいます。「品質のわりに安い」なら、inexpensive reasonable の方が適切です。

 

受験生や保護者の方に大勢来ていただいて、この上演は、こう言ってはなんですが予想外に受けました。上演の後はキスチャック先生のリードのもと、スキットの表現のリピート練習をしてもらいました。皆さん熱心に声を出してくれました。

 

このような、日本人が勘違いしやすい表現を知っておくのは大事です。でもそれは「間違わない」ためではありません。むしろ、ネイティブスピーカーと話していて、こちらのちょっとした誤解から、相手が変な顔をしたり、話がかみ合わなかったりして「あれ?」と思う瞬間・・・その体験こそ宝物です。それが英語話者の発想や感覚へのより深い理解へとつながります。「間違いから最も多くのことを学んだ」というのは、ある程度の英語学習者なら誰でも実感としてあるはずです。

 

上のスキットでも、Nobu は表現の変なところを William に指摘されてただ恐縮してはいません。スキット2では、William のからかいに「たこ焼きでも食べて黙ってろ」とやり返しています。これは彼らのコミュニケーションのとり方であり、信頼関係があるからできることなのです。そのことを感じてもらえるようにスキットを作ったつもりです。

 

皆さん、どんどん英語を話してください。そしてどんどん間違ってください。

(N. Hishida)

 

【参考文献】

高島康司、『その英語ネイティブはゼッタイ使わない!:日本人特有の変な表現は誤解のもと』、あさ出版、2004年

Skit 3: At a Clothing Store ①

Skit 3: At a Clothing Store ①

Skit 3: At a Clothing Store ②

Skit 3: At a Clothing Store ②