えいごコラムR (4) : プーさんの自己愛

『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh)の第5章「コブタが、ゾゾに会うお話」の最後に、クリストファー・ロビンとプーは次のようなやり取りをします。

“Oh, Bear!” said Christopher Robin. “How I do love you!”

“So do I,” said Pooh.  (69)

クリストファー・ロビンの “How I do love you!” は、感嘆文 “How much I love you!” (僕がどれほど君を愛していることか!)の much が省略された形で、助動詞 do も動詞の強調として使われています。それにプーは “So do I.” と応えます。

この部分は邦訳ではこうなっています。

「ああ、クマ公!」と、クリストファー・ロビンはいいました。「ぼくは、きみがとってもすきなんだよ!」

「ぼくだってさ。」と、プーはいいました。(85)

日本語で読むと、これは互いを想う彼らの心情を表しているように見えます。私も長年そう思っていましたが、ある日、ダフネ・クッツアーというイギリス児童文学の研究者がこの場面について次のようにコメントしているのを見つけてびっくりしました。。

Pooh, like many children, is egoistical, in the sense that all stories revolve around him, and (for Pooh), Pooh’s point of view is the only true one. [ . . . ] when Christpher Robin says, “Oh, Bear! How I do love you!” Pooh responds, “So do I”—love himself, that is (Winnie 71).  (Kutzer 98)

クッツァーは、プーが多くの子どもと同じように自己中心的で、自分の視点が唯一の視点だと思っていると述べます。そしてプーの “So do I” は「自分自身を愛している」(love himself)という意味だと指摘するのです。

言われてみればそのとおりです。コラム第2回でも触れましたが、「so do +主語」は先行する肯定文の内容を、主語を変え「~も」という意味をこめて反復するのに使われます。たとえば “Kate speaks French well.”  “So do I.” であれば、 “So do I.” の部分は主語だけ変えて動詞や目的語は変えていないので、 “I speak French well, too” (私もフランス語が上手に話せる)という意味になります。

プーの返事を同様に考えてみると、主語だけが I に変わり、動詞の love と目的語の you は同じということです。しかしクリストファー・ロビンのセリフの you はプーを表しているので、書きかえれば “I love myself, too.” (僕も僕自身が大好きなんだ)となります。クリストファー・ロビンが大好きだと言いたいなら “I love you, too.” となるはずです。

ネイティブ・スピーカーの読者はプーの “So do I.” をどう解釈するのでしょうか。English Forwardというサイトで、このセリフはプーが自分を好きだということを言っているのか、それともクリストファー・ロビンを好きだと言っているのか、と質問している人がいました。ある回答者は、逐語的には「自分を好き」という意味だとしつつ、次のようにコメントしています。

You can interpret it two ways: either he meant it literally, or he got his words humorously mixed up and meant to say that he loved Christopher Robin (e.g. “I love you too”). I would tend towards the latter.

回答者は、プーが「クリストファー・ロビンを好きだ」と言うつもりで表現をごっちゃにしてこう言ってしまったともとれるし、自分はむしろそう解釈したい、と述べています。

おそらく英語圏の子ども読者も「プーはどういう意味で言ってるんだろう」と考え込むのではないでしょうか。作者ミルンはプーのセリフを通して、2人の友情を描くと同時に、「けっきょく自分のことしか考えていない」彼の性格をも巧みに表現しているのです。

『クマのプーさん』、英語で読むとほんっとに面白いですよ。

(N. Hishida)

 

【引用文献】

Kutzer, M. Daphne. Empire’s Children: Empire and Imperialism in Classic British Children’s Books. New York: Garland Pub., 2000.

Milne, A. A., with decorations by E. H. Shepard. Winnie-the-Pooh. 1926. London: Methuen, 1970.

ミルン,A. A.,石井桃子訳,『クマのプーさん/プー横丁にたった家』,岩波書店,1962年.

“‘I Love You’ ‘So Do I’?” English Forward

https://www.englishforums.com/English/ILoveYouSoDoI/bwpqjd/post.htm