【えいごコラム65】 歩いて10分(2)

 

えいごコラム(65)

 

歩いて10分(2)

 

前回のコラムでは、英語の名詞を単数にするか複数にするかはけっこう微妙なものだということを話しました。たとえば「存在しない」ものについて述べるときは、 “I have no friends.” (友達がいない)と “I have no car.” (車がない)のように、それが「存在する」場合に複数あるのが自然なら複数に、1つしかないのが自然なら単数にします。このように、名詞の単複は話者の感覚によって左右されることも多いのです。

 

では、「存在するかどうか分からない」ものについてはどうでしょうか。これも基本的には同じです。次の例文を見て下さい。

 

(5) Are there any good restaurants in Ocean City?

(オーシャン市にはいいレストランがありますか。)

(6) Excuse me. Is there any ATM around here?

(すみません、このあたりにATMはありませんか。)

 

(5) では、話者はオーシャン市に適当なレストランがいくつかあることを想定し、その中から選択するつもりでいます。だから restaurant が複数形になっています。しかし(6) では、ATM は1つあれば用が足りるのであって、複数から選ぶ必要はありません。だから単数なのです。

 

しかし、「存在するかどうか分からない」ものの単複がもっと微妙な要因によって決まることもあります。次の2つの例文のニュアンスの違いが分かりますか?

 

(7) Is there any problem?

(8) Are there any problems?

 

どちらも「何か問題はありますか」と尋ねる文です。problem は可算名詞で、(7) では単数、(8) では複数になっています。Wordreference.com で、この2つは両方とも自然な表現なのか、と質問している人がいました。sdgraham と名乗る回答者がそれに次のように答えています。

 

Note that this is NOT the same as asking if everything is OK. If you phrase it “Is there any problem?” you are suggesting that either the customer has some non-verbal indication of dissatisfaction or that the customer should be looking for a problem.

 

sdgraham は、どちらも自然だとしつつ、この2つが同じ表現だと思ってはいけないと指摘しています。 “Is there any problem?” は、話者が顧客に応対する立場だとして、相手が何か不満を抱いているか、文句をつけようとしていると察した場合の発話なのだそうです。fenixpollo という回答者がこれに次のように補足しています。

 

The best/most natural phrase is “are there any problems?” This is a fairly neutral way to ask if something is wrong, or if everything is OK.

 

As sdgraham explains, “is there any problem?”, or more commonly “is there a problem?” is a more confrontational phrase that implies that the other person is causing problems.

 

fenixpollo は、より自然なのは “Are there any problems?” で、これはふつうに「問題はありませんか」と確認するためのフレーズだとしています。それに対し、 “Is there any problem?”  もしくは “Is there a problem?” は、苦情を言おうとしている相手に対する “confrontational” (対立的)な発話だというのです。日本語にすれば「何か問題でも?」という感じなんでしょう。

 

ここでも原則は同じです。 “Are there any problems?” と尋ねる場合、話者は問題がない場合からいくつかある場合まで、いろいろな状況をニュートラルに想定しています。だから複数なのです。しかし “Is there any problem?” では、相手がすでに何らかの問題を心に抱いているのは明らかで、その「1つ」が肝心です。そのため単数を用いるのです。

 

ここまで考えてきて分かることは、「可算名詞はつねに単複を示さなくてはならない」という英語の規則が、じつはかなり無理のあるシステムだということです。1未満のものや存在しないものなど、単複が判然としないものは世の中にいくらもあります。英語を話しているかぎり、それらの単複をいちいち決定し続けなくてはなりません。単複を表現する必要のない(というか表現することがほとんど不可能な)日本語は、そういう点でははるかに大きな自由度をもっています。

 

しかしその一方、上の(7) (8) で見たように、ある名詞を単数にするか複数にするかが、同じような表現にまったく異なるニュアンスを与えることもあるのです。それは、おそらく日本語で再現することが難しい、英語特有の繊細さです。

 

“a ten minute walk” “ten minutes’ walk” にも、ひょっとしたらネイティブにさえ説明しきれないような、微妙な感覚の違いがあるのかもしれませんね。

(N. Hishida)

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【引用文献】

“Is there any problem / Are there any problems?” Wordreference.com. 26 Feb. 2015.