【えいごコラム63】 「マーガトロイドに恵みあれ」

 

えいごコラム(63)

 

「マーガトロイドに恵みあれ」

 

先日、イギリス研修でお世話になっている CIE オックスフォード校の副校長、マーガトロイド(Murgatroyd)先生が本学を訪問されました。そのしばらく前に「今度 Murgatroyd 先生という方が来ますよ」とキスチャック先生に話したら、先生が面白がって、 “Heavens to Murgatroyd!” という表現があるが、実際にその名の人に会うのは初めてだ、と言いだしました。

 

びっくりして調べてみると、たしかにありました。「こりゃ驚いた」とか「まいったな~」という感じの発話のようです。英語のことわざや慣用表現を集めた The Phrase Finder というサイトでは次のように紹介されています。

 

‘Heavens to Murgatroyd’ is American in origin and dates from the mid 20th century. The expression was popularized by the cartoon character Snagglepuss—a regular on the Yogi Bear Show in the 1960s . . .

 

これによると、20世紀中ごろからアメリカで普及した表現で、アニメ番組「ヨギ・ベア・ショー」に出てくるピンク色のピューマ、スナグルプスのセリフとして知られるようになったとのことです。YouTube にちょうど彼が “Heavens to Murgatroyd!” と言っている場面の画像があったので、下にURLを貼っておきます。

 

https://www.youtube.com/watch?v=7Fwpj27hlP4

 

もっとも“Heavens to Murgatroyd” はスナグルプスのオリジナルではなく、1944年の Meet the People という映画に出てきたのが最初だそうです。なぜ Murgatroyd という名が使われたのかさだかではありませんが、The Phrase Finder は、イギリスのギルバートとサリヴァンによる「サヴォイ・オペラ」の1つ、『ラディゴア』(1887年初演)の影響があるのではないかと推測しています。

 

No fewer than ten of the characters in Gilbert and Sullivan’s comic opera Ruddigore, 1887, are baronets surnamed “Murgatroyd”, eight of whom (or is that which?) are ghosts.

 

これは、ラディゴア準男爵の位を継ぐ一族、マーガトロイド家の物語です。一族には呪いがかかっていて、壁の肖像画から先祖の幽霊が次々に現れ、主人公のマーガトロイド家当主にその呪いがいかなるものかを語って聞かせます。サヴォイ・オペラはアメリカでも人気があったため、この作品が Meet the People に影響した可能性は小さくないと述べられています。

 

さらに The Phrase Finder  は実在のマーガトロイド家にも言及します。

 

It seems that Murgatroyd has a long history as a family name in the English aristocracy. In his genealogy The Murgatroyds of Murgatroyd, Bill Murgatroyd states that, in 1371, a constable was appointed for the district of Warley in Yorkshire. He adopted the name of Johanus de Morgateroyde—literally John of Moor Gate Royde or “the district leading to the moor”.

 

このように、マーガトロイドはイギリス上流階級において古い伝統をもつ家名だそうです。1371年にある人物がヨークシャーのウォーリーに治安官として赴任したとき、彼が “John of Moor Gate Royde” すなわち「荒野へと続く地のジョン」と名乗ったのが起こりだとか。

 

ところで、 “heavens to ~” はどういう表現なんでしょう。ODEによると heaven は間投詞で “substitute of ‘God’” すなわち「神」に代わる語になるとのことです。本来 “By heavens.” (神に誓って)や “Thank heavens!” (ありがたい)のように誓いや祈りに使われる語ですが、それが転じて “Heavens!” “Good heavens!” などが「なんてこった」、「おやおや」といった意味で用いられるようになったのです。

 

“heavens to ~” は、おそらく “blessings to ~” (~に祝福を)と同じような形で、文字通りには「~に天の恵みを」というような意味だと考えられます。呪いと幽霊にとりつかれている準男爵家の人々をネタにして、「マーガトロイドに恵みあれ」という意味にとれるフレーズを創作したことには、20世紀前半のアメリカ人たちの、旧弊なイギリス社会へのからかいがこめられているのかもしれませんね。

 

それにしてもマーガトロイド先生って、かなりやんごとなき生まれの方なんじゃ・・・。

(N. Hishida)

kokusai_hisida_01_01.jpg

【引用文献】

“Heavens to Murgatroyd,” The Phrase Finder. 11 Dec. 2014.

(http://www.phrases.org.uk/meanings/heavens-to-murgatroyd.html)

 

【参考】

Gilbert, William S. and Arthur Sullivan. Ruddigore: Or the Witch’s Curse. London: G. Schirmer, 1986.