【えいごコラム号外23】 Let It Go

  

えいごコラムExtra

 

Let It Go

 

『アナと雪の女王』(Frozen, 2013)が、ディズニー映画としても空前といえる大ヒットを飛ばしています。とくに主題歌の “Let It Go” が高く評価されているようです。今回はその歌詞をちょっと読んでみましょう。

 

この作品の主人公は、とある王国の王女、エルサとアナの姉妹です。エルサには生まれつき雪や氷を生み出す魔力があり、その魔力をひた隠しにして生きています。彼女はいつも一人で自室に閉じこもり、幼いころは仲が良かった妹のアナとも顔を合わせようとしません。

 

しかし、両親が早世したため、エルサが王位を継ぐことになります。戴冠式の日、彼女の感情がたかぶったことから、ついに彼女の魔力が国民の目にさらされてしまいます。エルサは城から逃れて人気のない雪山に踏み入っていきます。“Let It Go” はその場面で彼女が歌う歌です。以下にその1部を、日本語版の歌詞との併記で引用します。 

 

Don’t let them in

Don’t let them see

Be the good girl you always have to be

Conceal Don’t feel

Don’t let them know . . .

Well, now they know!

とまどい

傷つき

誰にも打ち明けずに

悩んでた

それももう

やめよう

 

 あらためて日本語歌詞が伝えられる情報の少なさに唖然としますが、それは置いときましょう。エルサはここで、自分のこれまでの境遇について述べています。5行目までがすべて命令文であることに注目して下さい。これらは彼女に課されていた「義務」なのです。

 

誰も自分の部屋に入れてはならず、魔力を見られてもいけない。そして3行目で “Be the good girl you always have to be.”  と言っていますが、これは直訳すれば「あなたがつねにそうであるべき“いい子”でありなさい」ということです。続く “Conceal.” は「感情を表に出すな」、さらに “Don’t feel.” は「感じるな」です。エルサは自分の気持ちをひたすら抑えつけて、自分の「本当の姿」を人に知られないようにしてきたわけです。この連は、開き直ったかのような彼女の “Well, now they know!” 、「でも、もう知られちゃったし!」という叫びで終わります。

 

メロディーはここで短調から長調へと転調します。そして Let it go. の連が始まるのです。そちらも引用しましょう。

Let it go, let it go

Can’t hold it back anymore

Let it go, let it go

Turn away and slam the door!

I don’t care what they’re going to say

Let the storm rage on

The cold never bothered me anyway

ありのままの

姿見せるのよ

ありのままの

自分になるの

何も怖くない

風よ吹け

少しも寒くないわ

 

“let it go” は「そのままにしておく、放っておく」という意味でよく使われますが、ここでは次に “Can’t hold it back anymore.” が続いています。 “hold back” は進もうとするものを押しとどめて引き戻すイメージなので、これは「もうそれを押しとどめていられない」ということです。おそらく “Let it go.”it は、それまでひた隠しにしていた彼女の心情、さらには内なる「力」をさしているのでしょう。それを「自由にほとばしらせよう」と言っているのです。

 

3行目の “turn away” は「顔をそむける、背を向ける」ということですが、何かを「避ける、拒否する」という意味でもあります。 “slam the door” は「ドアをぴしゃりと閉める」ですが、やはり、たとえば訪れた相手の鼻先でドアを閉めて、相手との「コミュニケーションを拒絶する」意味で使われます。エルサはそれまでの人間関係をすべて切り捨てる決意をしているのです。そして彼女は「彼らが何と言おうが気にしない」と述べます。

 

最後の “The cold never bothered me anyway.” を「少しも寒くないわ」としたのはたいへんいい訳だと思います。しかし原文をよく見ると、bothered と過去形になっています。つまりこれは、今寒いかどうかではなく、これまで寒さをつらいと感じたことはない、と言っているのです。anyway は「どうせ、いずれにせよ」です。城にいようが、ここにいようが、自分はずっと「寒さ」の中で生きてきた、それを思えば雪山の中に一人立っているこの状況も何ということはない、ということなのでしょう。繰り返されるこのフレーズは、逆に、それまでの彼女の「寒さ」がどれほどのものであったかを想像させます。

 

エルサは、さまざまなものを抱え込みながらこの社会で生きていかねばならない女性の姿が幾重にも投影された、複雑な、魅力あるキャラクターです。ぜひいちど観てみてください。皆さんはエルサにどんな女性のイメージを重ねるでしょうか。

(N. Hishida)

kokusai_hishida_02.jpg

 

【引用文献】

『アナと雪の女王オリジナル・サウンドトラック(デラックス・エディション)』、WALT DISNEY RECORDS、2014年(歌詞カードから引用)