【えいごコラム号外22】 ハーマイオニーはロンと結婚すべきじゃなかった・・・?

 えいごコラムExtra

 

ハーマイオニーはロンと結婚すべきじゃなかった・・・?

 

「ハリー・ポッター」シリーズの作者J・K・ローリングが「ハーマイオニーをロンと結婚させたのは間違いだった」という趣旨の発言をし、話題になっています。『ガーディアン』紙は、ローリングがある雑誌のインタビューに応えて次のように発言したと報じています。

 

I wrote the Hermione-Ron relationship as a form of wish fulfilment. That’s how it was conceived, really.

 

“wish fulfilment” は「願望充足」です。conceive は「~を思いつく」という意味です。ハーマイオニーとロンとの関係を構想したのは自分の願望を充足するためだった、と作者は述べています。

 

For reasons that have very little to do with literature and far more to do with me clinging to the plot as I first imagined it, Hermione ended up with Ron.

 

“have to do with ~” は「~と関係がある」で、それが2度繰り返されています。1回目には “very little” (ほとんど~ない)が使われ、2回目には “far more” (はるかに多く)があります。 “cling to ~” は「~に固執する」という意味です。つまり、ハーマイオニーがロンと結婚したのはおよそ文学的な理由からではなく、自分が最初に思い描いたプロットに固執したという理由の方がずっと大きい、ということになります。ちなみに、最後の “end up with ~” “He ended up with a broken leg.” (けっきょく彼は脚を折るはめになった)のようによくない結果に使うことが多く、ヒロインの結婚を形容するにはかなりシニカルな表現です。

 

I know, I’m sorry, I can hear the rage and fury it might cause some fans, but if I’m absolutely honest, distance has given me perspective on that. It was a choice I made for very personal reasons, not for reasons of credibility.

 

distance は「距離」ですが、ここでは「距離を置くこと」という意味です。また perspective には「客観的な視点」という意味があります。シリーズ全作を書き終えてから何年か経って作品を客観的に見られるようになったということでしょう。 “personal reasons” は「個人的理由」で、credibility  は「信用性」、つまり小説などのプロットや描写がどれほど読者を納得させ、リアリティを感じさせられるか、です。ローリングは、ハーマイオニーの結婚相手を個人的理由で決めたことによって、作品のリアリティが損なわれてしまったとまで考えているのです。

 

彼女は、次のように、自分のこの発言が読者の心を傷つけないといいが、と述べてインタビューを終えています。

 

Am I breaking people’s hearts by saying this? I hope not.

 

たしかに、ハーマイオニーはハリーと結婚した方がよかったのに、と思うファンもいるかもしれません。でも、主人公ではなくその友人と結婚することがなぜ「願望充足」なのでしょう。

 

これはローリングにとってハーマイオニーがどういう存在だったかということと関わりがあります。ある伝記には、彼女が「ハーマイオニーは私の分身だ」と発言したことが記されています(Smith p.41)。

 

ハーマイオニーは、両親とも魔法使いでなく、魔法世界で低く見られる立場でありながら、魔法使いの学校に入学し、才能と努力で頭角をあらわします。ローリングもそれほど高い階級の出身ではありませんが、学業成績は優秀で、英国の特権階級が進む大学であるオックスフォード大を目指しました。その点で彼女らの立場はかなり似通っています。

 

一方、ロンの家であるウィーズリー家は、現在は裕福でないものの、由緒正しい魔法使いの家柄です。ローリングが作品の着想を得たとき、ハーマイオニーの将来として最も望ましく思われたのが、旧家の男性と結婚して真に魔法世界の一員となることだったわけで、それはまた自分自身の「願望」とも重なるものだったのではないでしょうか。

 

ハリーについても同様のことがいえます。彼はロンの妹であるジニーと結婚します。ジニーはキャラクターとしていまひとつ存在感がなく、私はむしろこの結婚の方が納得いきません。これもやはり、ハリーをウィーズリー家と結びつけるという目的が先行した展開ではなかったかと思います。

 

「ハリー・ポッター」シリーズには、血筋や家柄にこだわる英国社会への批判がさまざまな形で表れているといわれます。しかし作品を最初に構想したとき、ローリングにとって、ハーマイオニーとハリーの冒険は、彼らが旧家の一員として迎え入れられることで初めて完結するものだったのかもしれません。

 

このインタビューは、自分もまた家柄にこだわり続けていたことに気づいたローリングの、苦みを含む「告白」として読めるような気がします。

(N. Hishida)

 

【引用文献】

“JK Rowling: Hermione should have married Harry, not Ron.” The Guardian 2 Feb. 2014.

Smith, Sean. J. K. Rowling: The Genius behind Harry Potter. London: Arrow, 2002.