【えいごコラム38】 DJポリス

 

えいごコラム(38)

 

DJポリス

 

今年の6月、サッカー日本代表がオーストラリアと引き分けてワールドカップ出場を決めた晩、渋谷駅前に集まって出場決定を祝っている大勢のサポーターに、1人の警官が彼らの心をつかむ巧みな話術で交通規則の順守を呼びかけ、混乱を防ぎました。彼は「DJポリス」と呼ばれ、大いに話題になりました。

 

教室で決まった学生に話をするのだって容易じゃないのに、不特定多数の人に呼びかけて適切に誘導するなんてすごいな~、と思います。おそらくかなり専門的な訓練を受けているんでしょう。

 

それはともかく、私はこの「DJポリス」という名称を聞くたび、お腹の中で何かがずれていくような違和感を覚えます。それは英語の police が「集合名詞」だからです。

 

「DJ」は disk jockey  の略ですから、個別の人を表す名称です。しかし police  は「警官」のことではありません。コウビルドで police を引くと次のように記されています。

 

The police are the official organization that is responsible for making sure that people obey the law.

 

ここには police とは “the official organization” (公的機関)だとあります。つまり police  は、警察という「組織」を表す名称なのです。そのためこの名詞は、 “The police are after the car.” (警察はその車の行方を追っている)のように、つねに複数名詞として扱われます。組織を構成する「警官たち」という意味で用いることはありますが、個人としての警官のことを表わすわけではないのです。

 

このように、個々のものでなく、それが集まってできたグループを表す名詞を「集合名詞」といいます。これは日本の英語学習者にとってはなはだ厄介なもののひとつです。 police cattle (畜牛)のように複数扱いのものもあれば、 furniture (家具)や baggage (手荷物)のように単数扱いのものもあります。たとえば baggage  は、個々の鞄やスーツケースではなく、ある人が携えている荷物全体をまとめて表します。ですから鞄を2つ持って旅行している場合、 “*I have two baggages.”  とは言いません。 “I have two pieces of baggage.” となります。これは、baggage という大きな固まりを「切り分けた」ものが個々の鞄やスーツケースになるというイメージで、 “two pieces of cheese” (2切れのチーズ)と同様の表現です。

 

もうひとつ、日本人が勘違いしやすい集合名詞に staff (スタッフ)があります。日本語だと「3人のスタッフが手伝ってくれた」のように言いますよね。でも staff  は “all the people employed by a particular organization” (ODE)のことで、つまりある組織のために働いている人々全員をまとめて表す語です。 “How large is your staff?” (あなたの部下はどのぐらいいますか)のように使います。このように staff とは、「数」ではなく、「大きさ」が問題になるような概念なのです。個々の部下について言う場合は “a member of staff” です。ですから「3人のスタッフが手伝ってくれた」なら “Three members of staff helped me.” となります。

 

「ポリス」に話を戻しますと、では、1人の警官を表すにはどう言ったらいいのでしょうか。 policeman  という語はありますが、これはあまり穏当な言い方ではありません。日本語の「お巡りさん」のつもりで “Hey, policeman!”  などと呼びかけると失礼にあたることがあります。より適切なのは police officer です。これなら男性警官、女性警官を問わずに使えますし、相手への敬意を示すことができます。「お巡りさーん」と呼びたいときは “Officer!” と叫べば間違いがありません。

 

したがって、渋谷駅前につめかけた群衆をみごとに捌いてみせたあのお巡りさんを形容する表現は、「DJポリスオフィサー」もしくは「DJオフィサー」であるべきなのです。

 

・・・でも、これじゃやっぱり感じが出ないですよねぇ。

(N. Hishida)