【えいごコラム33】 ケーキは数えられない?

  

えいごコラム(33)

 

ケーキは数えられない?

 

次の2つの文を見てください。

 

(1) Tim’s mother baked three cakes for his birthday party.

(2) Tim ate three pieces of cake.

 

何か気づきませんか。Tim はちょっと食べすぎ?いえ、問題はそこじゃありません。

 

英語の名詞は「可算名詞」(countable noun)つまり数えられる名詞と、「不可算名詞」(uncountable noun)つまり数えられない名詞に分けられます。可算名詞は複数形になり(apples)、単数形には a や an  がつきます(an apple)。不可算名詞は複数形になりませんし、a や an もつきません。

 

不可算名詞にもいろいろありますが、「物質名詞」(material noun)と呼ばれるものが厄介です。これは気体や液体などを表す名詞のことですが、パン(bread)や紙(paper)など、固体であっても「切っても性質が変わらないもの」を含みます。たとえば卵(an egg)は、半分に割ってしまえば1個の卵と同じ扱いはできません。しかしパンは半分に切ってもやはりパンで、同じように食べられます。このような物質名詞は、 “a slice of bread” (ひと切れのパン)、 “a sheet of paper” (1枚の紙)のように、何らかの「単位」を用いて数えることがあります。

 

ここで上の英文を見てみましょう。(1)「ティムの誕生日パーティーにお母さんはケーキを3つ焼いた」では、ケーキは “three cakes” と可算名詞になっています。しかし(2)「ティムはケーキを3切れ食べた」では “three pieces of cake” なので不可算名詞です。

 

cake は、いわゆるホールケーキ、つまり形の決まった丸ごとのケーキの場合は可算名詞です。ところがそれを切ったものは不可算名詞になるのです。これは、ホールケーキは切ればもはやホールケーキではないが、6分の1に切ったケーキをさらに切って12分の1にしても、量が変わるだけで性質は変わらない、という発想から来ています。ですから人に「ケーキはいかが?」と勧める場合、間違っても “Would you like a cake?” などと言わないでください。これだとホールケーキを丸ごと食べろということになってしまいます。  “Would you like some cake?” と不可算名詞で勧めなくてはいけません。

 

同じ物質名詞でも、このような性質は bread  にはありません。 bread  はほぼ例外なく不可算名詞として使われ、丸ごとひと山の食パンでも “*a bread” とは呼ばないのです。

 

では、「ケーキは好きですか」と聞きたい場合はどう言えばいいのでしょう。次のどちらだと思いますか。

 

(1) Do you like cake?

(2) Do you like cakes?

 

個別ではなく一般的な「~というもの」を表現するとき(総称用法)は、不可算名詞なら単独で使い、可算名詞なら冠詞のない複数形を使うのがふつうです。しかし「ケーキというもの」の場合、cake  は可算でも不可算でも使うので困ってしまいます。「(食べるのが)好きかどうか」なら、食べるのはたいてい切ったケーキなので、不可算で “cake” とする方が自然な気もします。しかし本当にそれでいいのでしょうか。

 

英語の用法に関する質問サイトに、上のような疑問への回答として、次のコメントが出ていました。

 

‘Do you like cakes?’ suggests that there are a variety of cakes, perhaps on offer. . .  hmm. Chocolate cake, fruit cake, Battenberg cake. What a tasty question.

 

‘Do you like cake?’ asks if you like the foodstuff, cake. Any cake.

‘No, I can’t stand the horrible, spongy stuff!’

‘But surely you like chocolate cake?’

‘No.’

‘Not even strawberry cake?’

‘No. I told you. I don’t like cake.’

 

涎の出そうなコメントですね!これによると、 “cakes” が使われるのは、ケーキが何種類か用意してあって、それを相手に勧めるような場合だそうです。それに対して “cake” は、どんな種類(チョコレートでもイチゴでも)であれ、とにかくケーキという食品が好きか嫌いかを尋ねる表現だとのことです。

 

このように、名詞が可算か不可算かというだけで、それが伝えるニュアンスは異なります。こうしたことにいっさい悩まず「ケーキ」と言い切ってしまえばすむ日本語は、考えてみるとじつに便利な言語ですね。このことが「一般的なことを容易に表現しうる」という大きなメリットを日本語に与えていると私は思っています。

 

・・・やれやれ、お茶でも一杯飲みたくなりましたね。 Do you like cake. . . or cakes?

(N. Hishida)

 

【引用文献】

“Re: Using cake or cakes?”, UsingEnglish.com 02 June 2009.

( http://www.usingenglish.com/forum/ask-teacher/97380-using-cake-cakes.html )