【えいごコラム号外21】 Names Fit for a King

  

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Names Fit for a King

 

7月22日、英国のウィリアム王子とキャサリン妃の間に男の子が生まれました。英王室や政府は王位継承順位の男子優先規定を撤廃するために長いあいだ検討を進めてきたのですが、当面その必要はなくなったことになります。不謹慎ですが、この子が女の子だったら英国がどう対応したか、ちょっと見てみたかった気がします (^^;

 

赤ちゃんはジョージ・アレグザンダー・ルイ(George Alexander Louis)と名づけられ、ジョージ王子(Prince George)と呼ばれることになりました。なぜこの名が選ばれたかを解説する記事が『ガーディアン』にあったので、少し読んでみましょう。

 

The name George was the most popular with bookmakers, and has already been borne by six former wearers of the crown since the German-born George I, the first Hanoverian king of Britain, acceded to the throne in 1714. It is also the fourth name of the Prince of Wales, the infant’s grandfather.

 

“bookmaker” は、王子の名を予想する賭けをしていた「賭け屋」のことで、彼らの間では「ジョージ」が一番人気だったそうです。これはいわば最もオーソドックスな命名だったわけです。 “borne” は「(称号など)を帯びる」という意味の動詞 bear の過去分詞で、 “has already been borne” で受動態の現在完了になっています。 wear が「~を身につける」ですから、 “wearer of the crown” は「冠を身につけた者」、すなわち王のことです。ジョージという名は「これまで6人の王によって名乗られてきた」のです。その最初の1人がハノーヴァー朝の祖、ジョージ1世(在位1714-27)です。

 

“Prince of Wales, the infant’s grandfather” は、ジョージ王子の祖父であるチャールズ皇太子のことです。彼のフルネームはチャールズ・フィリップ・アーサー・ジョージ(Charles Philip Arthur George)で、即位後は「ジョージ7世」を名乗るのではないかと言われています。「チャールズ」は清教徒革命(the English Civil War, 1642-49)で処刑されたチャールズ1世を想起させ、王の名としては印象がよくないからです。

 

The announcement will undoubtedly please the Queen, whose father was George VI, although he was christened Albert. It came just hours after the 87-year-old monarch met her two-day-old great-grandson for the first time.

 

ジョージという名は、エリザベス女王の父で、映画『英国王のスピーチ』(2010)でその生涯が描かれたジョージ6世にちなんだものでもあります。フルネームはアルバート・フレデリック・アーサー・ジョージ(Albert Frederick Arthur George)で、即位前はアルバート王子と呼ばれていました。

 

女王は、自らケンジントン宮殿へ足を運んでジョージ王子と対面したそうです。英国君主が直系の後継者である曾孫と対面するのは、1894年にヴィクトリア女王が後のエドワード8世(ジョージ6世の兄)と会ったとき以来で、じつに119年ぶりだとか。

 

Alexander also runs through the infant prince’s paternal line. Prince Philip's grandfather was Prince Louis Alexander of Battenberg. There have been three medieval kings of Scotland named Alexander, so the name also plays to those north of the border.

 

“paternal line” は「父系」、 “run through” は「~を通って流れる」という意味です。「ルイ」と「アレグザンダー」は、エリザベス女王の夫、フィリップ殿下にゆかりの名です。殿下の叔父は、最後のインド総督だったルイス・マウントバッテン(Louis Mountbatten)、祖父は海軍元帥を務めたドイツ系の貴族、ルイス・アレグザンダー・バッテンベルク(後にマウントバッテンと改名)でした。彼らにあやかってウィリアム王子も名前にルイを持っています。

 

また、アレグザンダーは英国王の名にはありませんが、中世スコットランドにはアレグザンダーという王が3人いました。上の引用の “play to” は「~に受ける演技をする」というような意味で、たとえば “play to the grandstand” といえば「観覧席を意識したプレー」、すなわち「スタンドプレー」をすることです。 “north of the border” は「国境の北側」で、この場合はイングランドとスコットランドの「国境」を指しています。アレグザンダーは「国境の北側の人々」、すなわちスコットランド人にも受けのいい名前だというわけです。

 

・・・こんな歴史やら思い入れやらの詰まった名前を3つも背負わされて、この少年はこれからどう育っていくんですかねぇ。May he have a long and happy life!!

(N. Hishida)

 

【引用文献】

Davies, Caroline. “Prince George: royal couple choose name fit for a king.” The Guardian 24 July 2013.